最近は「ペットショップからではなく、保護猫を迎える」という考えが大分広まってきています。そんな中でハードルとなっているのが「保護猫の譲渡条件の厳しさ」です。
ペットショップではお金を払えば誰でも犬や猫を買えるのに、なぜ譲渡になると条件が厳しいのでしょうか?
「条件が厳しすぎて保護猫を諦めた」「不幸な子を減らしたいのに条件が厳しすぎて意味がないのでは?」というような意見も目にします。
そこで、今回は「保護猫の譲渡条件がなぜ厳しくなっているのか」について、保護猫を諦めた経験がありながら、現在は保護猫ボランティアをやっている視点から解説しようと思います。
譲渡条件が厳しくて保護猫を諦める
実は我が家も、最初は保護猫を迎えるつもりでした。
猫と暮らせる環境になってから、数ヶ月ほどいろいろな譲渡会に参加しました。しかし「同棲カップル」というのがネックになってしまい、結果的に保護猫を諦めることとなりました。
我が家のように「保護猫を希望したけれど条件が厳しくて諦めてしまった」という方は多いと思います。ネットなどでも「条件が厳しすぎる!」「猫を譲渡する気はあるの?」という声はよく見ます。
では、なぜ保護猫の譲渡条件は厳しいのでしょうか。一般的な譲渡条件と併せて紹介します。
脱走防止対策は必須
どこの保護団体でも必ずと言っていいほど必須条件になるのが『脱走防止対策をすること』です。
脱走防止の対策をすることに同意できなければ保護猫は諦めた方が良い、というくらいどこの団体でも必須条件です。
過去に猫を飼っていた経験がある人、既に猫を飼っている人ほど「うちは大丈夫」と思っている人も多いのですが、油断してたらある日突然!……なんてことはよく聞く話です。
窓からの脱走対策
窓からの脱走を防ぐには、網戸ロックを必ず付けるようにします。猫は網戸くらいなら簡単に開けられるので、全ての窓の網戸には必ずつけます。
更に対策する場合はペット用の網戸に張り替えたり、自前で柵を作って網戸の前に設置するなどの方法もあります。体の大きな子や力の強い子が網戸を打ち破ったり、外してしまうリスクも回避できます。
玄関からの脱走対策
玄関から室内への間に内扉がないお家は、特別な脱走対策が必要です。
「玄関を開けたらすぐにリビング」「玄関を開けたら階段や廊下、各部屋のドアがある」という間取りのお家は、脱走防止扉を設置する必要があります。
現在では後付けタイプの色々な商品が出ているので、2~3万円くらいで手軽に設置することができます。
DIYで手作りしたり、インテリアやクオリティ重視の場合はプロに依頼して特注する方法もあります。
お部屋探しのポイントに!
もしペットを飼いたいと思って、ペット可の物件に引っ越したり、お家を建てる予定の方は内扉を必須条件にいれるのがおすすめです。
我が家も引越しの際には玄関と住居スペースに内扉があることが必須条件でした。
玄関と内扉の間にあるのがトイレやお風呂への扉くらいなら問題ないですが、階段や廊下+各部屋へのドアがあるお家では必須の対策になります。
完全室内飼育の約束
譲渡会に参加している保護猫達は外での生活経験がある子ばかりです。生まれてからずっと外に出たことのない猫に比べて、外への抵抗感がありません。
そのため、譲渡の条件として必ず「完全室内飼育」が盛り込まれます。完全室内飼育とは、ベランダも敷地内の庭も含めて「外には出さない」ということです。
猫を外に出すことの主なリスクは交通事故、野良猫との接触、病気、虐待の4つです。どの内容も猫の命を守るため…そして飼い主さんが悲しい想いをしないようにするためのものです。
交通事故に遭う危険
猫を外に出すリスクとして、最も大きいのが車の事故に遭うことです。私の身近なところでも、知っている猫ちゃんが車に轢かれて死んでしまった話は度々耳にします。
猫が死んでしまうことはもちろん悲しいのですが、猫を弾いてしまったドライバーもショックを受けるのではないでしょうか。
可能性は高くはありませんが、車で飛び出してきた猫を無理に避けようとして人に怪我などを負わせてしまうリスクなども理解しておきましょう。
野良猫と接触する危険
飼い猫を外に出すことで野良猫と喧嘩して怪我を負ったり、命に関わるような感染症にかかる可能性もあります。
他の猫から感染する可能性のある猫エイズや猫白血病は、一度感染してしまうと完治することのできない病気です。
病気になる危険
猫を外に出すリスクとしては「病気への感染」があります。
例えば草むらにはノミダニがいますし、夏にはフィラリアを媒介する蚊も飛んでいます。お腹の中に寄生する虫もいます。
マダニは人の命にも危険を及ぼすので、飼い主にも危害がでる可能性があります。
虐待される危険
世の中、猫が好きな人ばかりではありません。中には猫を虐待することを喜びに感じる人もいます。
人に慣れている飼い猫は虐待の対象になる危険性が高いです。
少し前にも飼い猫が捕まって内臓を全て出されて殺されるような残忍な事件がありました。他者による虐待は外に出さなければ防げます。
譲渡契約書と身分証の提示
法的には猫はモノとして扱われるため、所有権の譲渡を明確化させるためにも契約を締結します。契約があることで、お互いにルールを明確化しトラブルを防ぐことができます。
個人情報の提示に抵抗がある人もいるようなのですが、契約は自分自身を守るためのものにもなります。
また、契約書を締結する際には身分証明書の提示が必要になる場合が殆どです。正式な契約書の締結ですのでお互いの身分をしっかり明かすことは必要条件です。
仮に嘘の身分証明書を提示した場合は、公的な証明書の偽装や詐欺に当たりますので刑事罰の対象です。刑事罰のリスクがあることで、虐待目的の里親詐欺を抑制する効力があります。
自宅訪問が必須
殆どの譲渡会では猫をその日のうちに連れて帰ることはできません。猫はボランティアや保護主が新しいお家に連れて行くことになります。
理由としては、猫が暮らすのに適した環境であるかを確認するためです。
脱走防止はできているか、猫に危険なモノはないか、その猫にとって快適に暮らせる環境か、ご家族みんなに愛してもらえるのか、家の中は不潔ではないか…などなど。
自宅訪問はトライアル開始と、トライアル後の譲渡契約の際の2回になることが多いです。お家の環境が悪ければトライアル開始前に連れ帰ることもありますし、トライアル中に問題があると判断すればトライアル後でも譲渡をしないこともあります。
また、身分証明書や契約に記載された自宅住所に猫を届けることで里親詐欺を予防します。
譲渡後の定期的な連絡をお願いする理由
譲渡後に猫についての定期的な連絡をお願いする場合があります。譲渡後も連絡を必須にすることで里親詐欺を防止します。
また、保護されていた猫は預り宅では家族同然に愛されていました。幸せになる未来を託して新しい家族の元へと送り出した猫の様子が知れるのは、譲渡した側からすると嬉しいことです。
保護猫活動の活力にも繋がるので、できれば幸せの近況をお知らせしてあげてください。
高齢者、同棲者、一人暮らし、子供はNG?
保護猫の譲渡条件でよく見るのが「高齢者不可」「同棲カップル不可」「独り暮らし不可」です。この3つはどこでも見るというくらい鉄板の条件です。
高齢者が不可な理由
高齢者が不可になる理由は「猫を最期まで面倒みることができない可能性が高い」からです。
同居している後見人がいると譲渡してもらえる可能性はありますが、高齢者のみのお家では不可になる可能性がかなり高いです。
突然の入院や死亡により猫の行き場がなくなってしまったり、誰にも知られずに飼い主のいない家で餓死してしまう…なんてことも実際に起きています。
保護団体に寄せられる相談では高齢者が起因によるレスキュー案件がとても多いです。認知症による飼育放棄や多頭飼育崩壊は悲惨なものです。猫よりも人の人権が優先されるため、劣悪な環境から猫を救い出すのにも時間がかかる場合もあります。
日頃から猫のお世話がしっかりできて、何かあれば早めに病院にも連れて行けるとなると、飼い主自身がある程度は動ける必要があります。
こう言った懸念から高齢者への猫の譲渡をためらう保護主は多いです。やはりせっかく助けた命なので、最期まで幸せに過ごして欲しいと願います。
同棲カップルが不可な理由
我が家が猫の譲渡を諦めた理由の一つでもある「同棲カップル不可」ですが、理由としてはカップルが別れてしまった後に猫の責任をどちらが負うかで揉めることが多いからだそうです。
例えば彼女が猫を飼いたがっていたけど彼氏はそれほどでもなかった。別れた後に彼女が猫を残して家を出てしまい、彼氏が猫を捨ててしまった……などという話が実際にあります。
保護主によっては、同棲カップルでもその人たちの条件によっては譲渡する場合もあるようなので、確実に断られるという条件ではありません。
一人暮らしが不可な理由
保護団体によって差はありますが、単身者も譲渡のハードルが高めです。理由としては、お留守番の時間が長すぎてしまったり、急な病気などにすぐに対応しにくいためです。
やはり一人暮らしだと自分のことも猫のことも、全て一人で対応しなければならずとても大変です。(これは猫を飼っている我が家でもすごく実感しています)
また、特に男性の単身者には保護団体の目線が厳しくなります。これは猫を虐待する人が男性に多い傾向にあるからです。
「自分はそんなことしない!猫が大好きだ!」というのが事実でも、巧妙な里親詐欺師を見抜くのは至難の技です。
大切に面倒を見てきた猫を自分の手で虐待犯に渡してしまったら……一生後悔する程のダメージです。慎重になってしまうのも仕方ない部分ではあります。
小さな子供のいるお家が不可な理由
小さなお子さんがいるお家では、猫の性格とお子様の性格によって譲渡を断られる場合があります。
理由は猫が嫌いなものの中には人間の子供が含まれるからです。予想できない動きをしたり、甲高い声、力加減をせずに触る…などが猫にとって強いストレスになります。
特に、子供のしつけがしっかりできない親だったり、猫に優しく触れられない子のいるお家には譲渡したいと思う保護主さんはいません。
家が遠いと断られる確率が高い
里親希望の方にはあまり知られていないのですが、保護猫がいる場所から距離があるとそれだけで断られることがあります。
理由は単純で「猫のお届けに行くのが大変」だからです。
特に『ぺっとのおうち』やネット上で申し込みをされるケースに多いのですが、車で1時間…しかも有料道路を使わないといけない距離……となると物理的に譲渡が難しくなります。
保護猫の譲渡には何度か自宅へ伺う機会があります。トライアルの時に猫をお届け、トライアル後に正式譲渡で…トライアル中に猫の体調が悪くなればその猫のかかりつけ医に連れて行きます。
譲渡側はほとんどがボランティアです。そのため、遠方への譲渡は負担が大きくなり難しいのです。
保護猫を希望される場合は、できるだけ自宅から近い範囲で探されることをおすすめします。
飼い猫同然の愛情を与えられているということ
ここまで、よくある一般的な譲渡条件を紹介してきました。どの条件も、その理由の根本は「猫に幸せになって欲しいから」という思いがあります。
一時的に保護した子とはいえ、検査をして、病気があれば治るまで通院し、トイレを覚えていない子にはトイレを教え、人を怖がる子には時間をかけて慣らし……
保護主は保護した猫達に、飼い猫と同じくらいの愛情をかけています。「この子にとってよりよりお家に譲渡したい」と思うのは自然なことです。
条件が良いお家でも、猫の性格に合わない環境であったり、先住猫との相性が明らかに悪い…という理由で譲渡をお断りすることもあります。
人を見抜くのは難しい
保護猫の譲渡を断られた人の中には、猫を愛情と責任を持って飼育できる人もいる筈です。それでも断られてしまう理由は「人を見抜くことの難しさ」があるからです。
実際に我が家も、何度も何度も譲渡を断られましたが、今ではこんなブログを立ち上げて、更には預かりボランティアをするくらい猫が大好きです。
里親詐欺や猫を最期までしっかり飼えない人とそうではない人を見極めるのはほぼ不可能です。なので条件である程度、選別するしかないのが現状です。
譲渡会では皆さん、とても愛想よくされます。それは猫を貰いたいからです。お断りをした瞬間に態度が豹変する方もいます。トライアルでお家に言ったら家中が物やゴミで溢れているお家もあります。
更に加えると、保護猫の活動をしていると驚くほど「猫をしっかり飼えない人」が多いのです。私もボランティア活動を始めて半年も経っていませんが、猫をきちんと飼うことができない人の多さに驚いています。
生後1ヵ月の仔猫を拾ったのに、思ったより大変だったからと捨てた人もいます。飼い猫をケージに閉じ込めて糞尿まみれにして数ヵ月も放置していた人もいます。
普段、そういった方々と接する機会が多いと「愛情と責任を持って最期まで猫と暮らせる人」がそんなに多くはないということを知ります。
そんなに多くないと知っているからこそ、条件が厳しくなり、疑わしければ「たぶん大丈夫」という選択はせずに、お断りを選びます。
そこまでするの?びっくり条件
保護団体や保護主によっては独自の条件を設定している場合があります。猫の飼い方や思いは人それぞれ…なので譲渡条件も色々なものがあるようです。
「猫のためなのは分かるけど…そこまで従わないといけない?」私が過去に見たびっくりした条件を紹介します。
ちなみに条件を見て「ちょっとそこまでは聞かれたくない…」と抵抗がある方は、お互いに時間の無断なので、その保護主さんからの譲渡は諦めた方がいいです。
収入証明書の提出が必須?
猫を飼うのに十分な経済力があるかを知るために、源泉徴収書や通帳のコピーなどを求めるところもあるそうです。
私はそういった条件の方にはあったことがないのですが、流石にプライベートな部分すぎてためらう気持ちも分かります。住所やお留守番の時間なども伝えるので、防犯的にもちょっと心配になってしまいます。
もちろん命の責任を負うためには経済力があることは必須ですが、ダイレクトすぎると引いてしまうかも?
猫のご飯を指定をされる?
猫の体質の問題で指定のフードをあげるようお願いされることはあります。例えば「お腹が緩くなりやすいので食物繊維の多いフードを…」「軽いアレルギーがあるので該当成分の入っていないフードを…」などなど。
驚くのは特別な理由がないのに、保護主さんの考え方のみで「〇〇の商品をあげてください」「ウェットフードを必ずあげてください」と強制されること。それって一生あげないといけないの?
おすすめされる程度なら良いのですが、自分の考えを強制してくるのは少し考えてしまいます。
猫の飼い方は人それぞれ。愛情をもって猫のことをしっかり考えているのなら、そんなところまで強制しなくてもいいんじゃないかな~と私は思います。
ペットホテルは禁止!
これは私が実際にびっくりした条件です。
なんでも過去に、ペットホテル側の不注意で猫が脱走してしまったことがあるそうです。そのため「ペットホテルは絶対に禁止!長期で留守にする場合は、必ず家に親戚や友人に来てもらうように!」と言われました。
「親戚や友人に家に泊まってもらうって全ての人ができることじゃないし…そこまで言う通りにしないといけないの?」「脱走させたペットホテルが悪いのであって、全てのペットホテルがダメっていうのは極端すぎるのでは?」と思った記憶があります。
ちなみに我が家は頭数が多いのでペットシッター派です。
ブログは必ず読んでね!
これも私が言われたことのある条件です。
譲渡会でたまたま抱っこさせてもらった子だったのですが「この子がいいなら、保護した経緯をブログに書いてあるから読むのがまず条件ね!」と言われました。
「興味があれば言われなくても読みに行くので、条件にしなくても大丈夫ですが…」と思った記憶があります。
逆に条件にせずに、ブログの存在だけ伝えておいて、後で読んだか読んでないかを聞けば譲渡先を選別できるのになぁ…と今では思ってみたり。
保護猫の条件についてまとめ
私自身も保護猫の譲渡を何度も断られて諦めた過去があります。その時は「条件が厳しすぎる…」と愚痴をこぼしたことも。
飼い主候補にキラキラした顔をしていた保護主さんが「同棲していて…」と言うと「あぁ~…」って残念そうな表情に変わるのは今でも忘れられません(笑)
それから約2年……今は預かりボランティアをやりながら、保護猫団体の活動や譲渡会のお手伝いをする日々を送っています。
今では「条件が厳しいと文句を言いたくなる気持ち」も「条件を厳しくしてしまう側の気持ち」も分かります。(今でもあれはやりすぎだろう…と思う条件はありますが/笑)
ボランティアを経験して初めて知ったことがとても多かったです。そして、保護猫の譲渡条件が厳しくなってしまうことに納得ができたので、この記事を書こうと思いました。
世の中、本当に色々な人がいますね。